黒曜の戦場


ほろり、右の目尻から頬を伝う雫を感じてハッとした。

その涙が頬を撫でていったのはきっと、みっちょんの言葉が自分の気持ちにピッタリと重なったから。

琥珀の心を想って心配してくれているみっちょんに、救われたと思ったから。



やすむ……?

絵を描くことを……?



やすんで、いいの?



それからすぐに絵を描かなくなったわけではない。

賞に応募することをやめた。

別の画材を探してみた。

切り絵を始めて、手芸にも手を出して、羊毛フェルトでザクザク針を刺して、立体にも挑戦したり。



休む、ということがうまく出来なくて。

自分の好きだった水彩絵の具から、一度手を離して、版画にもいくつか手を出して。



そしていつのまにか、両親に多大な心配をされるようになっていたんだ。



みっちょんになにか言われたから、琥珀が絵を描かなくなったんじゃないかって。

みっちょんは気が強いから、きっと両親の目にはそういう……偏見みたいなものが、あって。



本当はすごく優しくて、強くて、琥珀ですら気付けなかった琥珀の気持ちに気付かせてくれて。

でもそう親に説明しても、みっちょんからそう言わされてるんじゃないかって心配されて、話を聞いてくれない。

琥珀の言葉を信じて貰えない。

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