黒曜の戦場


「そういえばあの時、誰が琥珀を運んでくれたんだろう」



ふと、そんな今さらといえば今さらなことが、頭の中に浮かんできたのだ。



たしか、琥珀が眠くなったのは一階でみんながわちゃわちゃしている場の端っこだった。

自分で二階への階段を登った記憶はないし、自分で登っていたならきっと、お昼ご飯を食べていたソファーに寝転ぶんじゃないだろうか。

そうなると、誰かに運んでもらったことになる。



『咲の部屋は咲以外入れねぇ』



そう、確かいおくんが言っていた。

ということは、琥珀をあの部屋に運べる人は咲くんしか────。



そう思ったら、なんだか胸の奥が一瞬、ムズムズっとした。

なんだろう、今のムズムズは?



最近、どうも咲くんのことを考えると、胸の辺りが変な感じになる。

かと思えば、すごく安心して、ぼーっとしてきてしまうこともある。



咲くんは不思議な人だ。

ずっとその横顔を眺めていられるし、でも顔を覗き込まれるとすごく逃げたくなってしまう。

存在そのものが美術的で、魅力的で、人の視線を奪ってしまう存在感。
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