黒曜の戦場
「ね、こはく」
胸に拳を当ててぐぬぬと複雑な面持ちで目を瞑っていると、顔のすぐ近くで声がしたので、バチッと瞼を開いてしまった。
すぐ目の前で視線が交わり、んぐっと琥珀の息を詰まらせる。
近すぎて、未夜くんの麗しいまんまるな瞳に絡みつかれる。
思わず、息を止めてしまった。
琥珀の変な顔をそんなにまじまじと見られていたのか。
ドクドクドクドク、心臓が急激にやる気を見せる。
顔に集まってくる熱、椅子の背もたれには未夜くんの手が体重をかけていて、もう片方の手は机にあって。
これじゃまるで……迫られているみたいじゃないか。
「でーと」
「…………で、でーと」
「なにするのか、よくわからないけど。琥珀は知ってる?」
「……い、いや…………少女漫画に、ある、かも」
ふと思い出してしまう、この下の部屋にある少女漫画。
琥珀もまだまだ修行中の身、でーとなんていうハイレベルなシチュエーションで何をするかなんて何も分からない。
この前、咲くんにゲーセンに連れていかれたことだって、結局でーとだったのか仕事のうちなのかわからないままだ。
目の前には間近に迫る未夜くん、私の手には未だ持ったままのトーンカッター。
…………むしろ今危ない人なのは私の方なのではないか?(武器所持中)