黒曜の戦場
その言葉はもう、咲くんに投げかけられているものだって、琥珀にもわかった。
「うん、じゃあまた、ミツハちゃん」
今度こそ廊下に向かって歩き出した咲くんに引かれながら、琥珀も慌てて「バイバイ、みっちょん!!!」と別れの挨拶を投げた。
「はーい、またメッセージ送るわー」
遠のく美術室から、そんなみっちょんの言葉がかろうじて耳に届いた。
廊下を突き進んでいく咲くん、繋がれた手、混乱する琥珀。
手は……繋いだままでいいんだろうか?
あれ、でももう高校生だし……学校の中で迷子になることもないし……。
「あ、あの、咲くん!」
行き先は、外に停めているいつもの真っ黒な車。
そのまま琥珀は今日も黒曜に行って、一点透視の描き方を習う予定なんだ。
「どうしたの?琥珀ちゃん」
「へ……」
まるでそれが、なんでもないことかのように。
まるでいつも通りのように、当たり前かのように。
咲くんは立ち止まって、いつも通りに優しく私の顔を覗き込んでくる。
とく、とく、とく、心臓の音が耳に響いてくるようで。
胸の奥がまた、むずむずと震えた。
「あの、手……なんだけど」
「うん?」