黒曜の戦場


「咲と出会った頃……夜、雨林に連れられて黒曜の倉庫に入ったんだけど、その頃は本当に何も話せなくて、ひたすらずっと怖くて」

「……」

「最初に話しかけてくれたのが咲だった」



初めて聞く、未夜くん自身のお話だった。



「琥珀は、家族が怖いと思ったことはある?」

「……どうだろう、琥珀のおうちは…………、優しすぎるからなぁ……」

「優しすぎる?」

「琥珀、ちっちゃい頃ちょっと体が弱かったの」



だから、だから琥珀も、未夜くんに。

少しだけ、おかえしに。



「だからちょっと、その名残で」

「過保護?」

「うーん、でもパパもママも、琥珀は好きなの」



琥珀はちょっとだけ、他の人より体調を崩しやすくて。

でもお絵描きが好きだったから、できる限り色んな景色をって、車で連れて行ってくれて。

体の調子が悪い時はずっと付き添っててくれて。



お勉強についていくのも、ちょっと大変だったなぁ。



「未夜くんは、家族が……その、怖いから、黒曜に来たの?」



聞いていいのか、少し悩んだ。

琥珀は人と関わる時間が足りていないから、そういう気遣いみたいな所が欠けてしまっている。

だから、踏み込んでいいのかダメなのか、境目が曖昧で。



でも。



「うちの家族は、ずっと俺を責めてくるから」



未夜くんは、話してくれた。

< 326 / 505 >

この作品をシェア

pagetop