黒曜の戦場
後頭部に回る、咲くんの意外と太い腕、座席に倒れて、誰にも見えない車の中。
ふたりだけで、いつもよりずっと近い距離で見つめあう時間。
一瞬の出来事だったのに、やけに長く感じた瞬間。
ゆるりと、その瞳が怪しく笑った。
「琥珀ちゃんはすぐ、他の男も虜にしちゃいそうで、不安なんだよ」
「……ふ、あん?」
「そう。未夜も雨林もいおりとも、下の奴らとも、仲がいいのは嬉しいことなんだけどね」
……リンくんはちょっとまだ、琥珀的には壁がある気がするけど、なぁ……。
「俺の事嫌いじゃない?」
「も、もちろん……嫌いになんてなれないよ、とってもお世話になってるし、助けて貰ってるし、優しいし……こ、黒曜のブレスレットだって大切に、」
「どうだろう?俺優しくないけど」
さっきから咲くんは何をしていて、なんでそんな話をこの体勢のまましているのか?琥珀は分からないけど、とにかく近い。
逃げ場がない。
逃げられない、心臓がどくどく、暴れ出す。
琥珀の手を取り、絡められる指先。
慣れない雰囲気を醸し出されて、顔に熱が集まってくる。