黒曜の戦場
「琥珀」
言葉ひとつひとつが、聞き逃せないような、彼に囚われたようなそんな世界の中。
目の奥が、鼻の奥がツンと痛んできて、意味のわからない涙が溢れそうになる中。
「逃げないで」
彼は、私の知っている中で初めて、私の痛みに触れる。
「怖くなかったはずがない。そんなに笑って見せたって、俺には誤魔化しているようにしか見えないよ」
その瞬間までは、自分の気持ちも咲くんの言葉も、よくわかっていなかったのに。
ほろり、ほろり、涙が一粒、また一粒と流れ落ちる。
「……え、なに、これ」
琥珀は動揺する、こんなの琥珀ちゃんじゃないと。
心配させてしまう、いけない、もっと元気なのが琥珀ちゃんなのだから。
「ごめんね、わからないけど……気にしないで」
ぽろぽろ、ぽろぽろ、止まらなくて。
なんで?なんで?って思うのに。
とまれ、とまれって思ってるのに。
『俺には誤魔化しているようにしか見えないよ』
その言葉が、刺さったからだ。
なんで刺さったのかって、図星だったからだ。
現実逃避して、妄想の中へと逃げ込んでしまう。
それは、傷を見ないように、見せないように、大丈夫大丈夫だと。
見ないように、していただけだと。