黒曜の戦場
悩むように斜め上に向けた視線が宙を彷徨《さまよ》い、私の視線に合わされる。
「大した話ではないんだけど、また今度話すことにするよ」
「……え」
「謎があった方が、気になってくれるでしょう?」
にこり、可愛らしいような、綺麗な笑みで、私の頭を優しく撫でる彼。
謎……謎のまま、か。
確かに、気になってしまう。
そこに大した理由がない、としても。
こういう、駆け引きが上手い人なのかもしれない。
こうやって、人の注意を惹き付けるのか。
いたずらする子供のように、少し目を細めて、その瞳を車のフロントガラスの方へと向ける。
「着いたね」
ゆるりとその敷地の中へと入っていく車。
よく見ればチラチラとこちらを伺ってきているような、不良さんたち。
その視線は確かに、嫌なものを見ると言うよりかは、興味本位のように見える。
「おつかれさまっす!!」
そう聞こえてくる声に、今日も彼は反応せず。
私も画材とお弁当を入れたバッグの持ちてを両手で握りしめて、微かにぺこりぺこりと頭を下げながら、今日もまたその階段を上って二階へと導かれていった。