黒曜の戦場
「一回は我慢したんだけど、その後はもう自分の欲望に負けちゃって」
「は、はわわわわわ」
「逃げられてた間はどうしたもんかと思ってたけど。それでも拒否はしないでくれてたから、ついこのまま流しちゃおうかと思って……でもダメだね、やっぱり順を踏まないと」
もういっぱいいっぱいで目をぎゅっと瞑っちゃっている琥珀の手が、柔らかくさすられる。
キスという二文字の単語だけで頭がいっぱいいっぱいになっちゃっているのは、ようやく自覚したからだ。
琥珀、咲くんとキスしたんだって。
「琥珀?」
「……」
「なにもしないから、落ち着いて?」
胸が、いっぱいいっぱいだ。
乱れてくる呼吸を整えようと、ゆっくり吐いて、吸ってを繰り返す。
熱くなっていた顔から、熱が少し引いてくると、ようやく手元で包まれている手を視認した。
このあたたかい手の先に、咲くんがいる。
すぐ隣にいるのに、上手く視線も合わせられない。
「……琥珀は、」
恐る恐る、私は言葉を呟く。
咲くんは聞いてくれる、大丈夫。
すこしずつ、すこしずつでいい。
向き合わなければ。