黒曜の戦場
でも、でもね、ひとつだけわかることがある。
他の人に咲くんを取られるのは、ちょっと……嫌だと。
あの時、あの逃げ出した瞬間、琥珀は嫌だと思ったよ。
咲くんが他の人に触れられてたこと、囲まれてたこと。
胸の奥がもやもやってして、心がむかむか、してたよ。
でも、でもね、咲くん、琥珀のために保健室まで駆け付けてくれたの。
その時は胸の奥がすごく……ずっきゅんて、して。
びっくりもして、ぽかぽか、体が熱くなっていったの。
あの時の気持ちって、一体どんな気持ちだったんだろう……。
琥珀は悩む、これまでなかったような悩みについて。
それは琥珀が少しだけ、少しだけ今までと変わってきたような感覚がある。
恋愛って、恋って、まだ遠い遠い存在なような気持ちでいて。
でも、琥珀はすぐそこ、すぐ手の届くすぐそこで、そういう感情を向けて貰っていて。
それはとてもとても、きっと幸せなことで。
ありがたいことで。
嬉しいことでもある。
けれど、琥珀の心はまだまだ幼くて、この、みんなが大好きなような気持ちで咲くんに安易に好きだと言ってはいけないんだと、最近知った。
特別な好きを、彼はきっと求めてる。
少女漫画でそう学んだ。