黒曜の戦場


いいの?ちょっと麺つゆ入ってるよ??



「ほしい」

「……」

「琥珀の、ほしい」



………………それは色々と問題発言のように感じてしまうよ琥珀ちゃんには!!!

恐る恐る、卵焼きを崩さないようにお箸で摘む。

ちょっと中がとろっとしているので崩しやすいのだ。



左手を添えて、ゆっくりと未夜くんの口元へと卵焼きを近付けると、一瞬口角が上がったのが見えた直後に、一口でパクリと食べられてしまった。

え……餌付けをしてしまった……。



「俺たちは一体何を見せられているんだ……?」



白髪くんの呟きが聞こえるけれど、私も一体何を見せ付けているのかわからない。

我に返った私は、そこにもう何も無くなっている箸先を見ると、みるみるうちに顔に熱が集まって来るのを感じていた。



これまで誰にもしたことのなかった『あーん』を、初めて今日会った小動物系男子・未夜くんに捧げてしまった……。

ファーストあーんを捧げてしまった……。

それは儚く一瞬で終わり、なんの余韻もなく、これまで通りの日常を私以外は進めていくことだろう。

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