黒曜の戦場


彼は、私に顔を向けて「しー」と人差し指を口に当てる。



この中では静かにしないといけないらしい。

それにこくこく、私は頷く。



なんの前触れもなしに勝手に扉を開けた彼に、肩がビクリと上がる。

大丈夫勝手に入っちゃって!?

怒られない!?怒鳴られない!!?



そんな不安から下を向いてギュッと目を瞑る私は、買い物袋をぎゅっと掴む。

今の安心材料は新入りのこの子たち(画材)しかいない。



そして一歩、手を引かれて中へと足を踏み入れた時、部屋の中から微かな音が耳を通りぬけて来た。

それは、かりかり、シャッシャッ、鉛筆と紙が擦れるような音。

外でバイクを乗り回していたような人たちとは縁の無さそうな……その音。

静かな空気の中で聴き慣れた微かな音に、私は俯いたまま瞼を開く。



「え?」



文字を書くような短い音じゃない。

短い、線を重ねるような音だ。



想定外に静かな環境音に顔を上げれば、広い部屋の中、目の前にいたのは机と真剣に向き合っている人が、四人程。

彼らもピアスをしていたり、髪色が赤かったり金っぽかったり青かったり……あ、信号カラーだ。

そしてもう一人はアッシュグレーの髪色。

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