義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
プロローグ



きらびやかなシャンデリア、アルコールの香り、語り合う人々と大仰な笑い声。
眩しくて目がくらんで、居心地が悪い。

こうした場所がどうしても苦手だ。
十代の始め、天ケ瀬(あまがせ)家の一員になった。その頃から何度かこうした会社関係者の集まるパーティーには参加しているけれど、場違いすぎて立ち尽くしてしまう。

子どもの頃はそれでもよかった。おとなしい子どもだと思われただろうし、社長夫人の連れ子は目立つべきではないと思っていたから。
しかし大人になった今、社交の場で気後れしていると、自分があの頃と本質的には何も変わっていないのだと痛感する。
社長夫人の連れ子のまま。天ケ瀬家の異分子でしかない。

衣装だと渡された若緑色のドレスも、普段ははかない高さのヒールも、大きな石のついたネックレスも、すべてふさわしいとは思えない。本来の私はこんなところにいるべき人間ではない。

今も、義理の叔母夫妻の目が痛い。叔母夫妻は私を嫌っているし、他にも私を物珍しそうに見ている関係者はたくさん。

「ぼたん、胸を張れ」

背後から耳元でささやかれた。そのよく通るテノールの声に、私は首をねじり視線を彼に送った。

「おどおどするな。天ケ瀬グループの社長令嬢だろう、おまえは」
「お兄ちゃん……」

天ケ瀬丞一(じょういち)は三つ年上の義兄(あに)だ。彼の大きな手が私の両肩に置かれ、どきりとする。触れられることには慣れていない。

「背筋を伸ばせ。凛としていろ。俺の隣に立つ女なのだから」

この人に義妹として扱われたことはほとんどない。それどころか、遠ざけられていたし、離れて暮らしていた。
今、義兄がなぜこんなことを言うのか私にはわからなかった。
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