義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
「この同居もそうだが、おまえが天ケ瀬泰作の娘である限り、そう簡単な話じゃないんだ」
「それじゃあ、……私は天ケ瀬の籍を抜けて、元の倉本姓に戻ります。たくさんお世話になった人たちに、これ以上迷惑をかけられないもの」

義兄がグラスを置いた。少し乱暴な置き方だったのは苛立ちからだろうか。切れ長の美しい瞳が私を射抜く。

「すみれさんの墓を管理するのは天ケ瀬家だ。すみれさんの遺産は親父と俺とおまえに分配されている。おまえはこれからも天ケ瀬家にいろ」

すみれ……母の名だ。
すみれさん、すみれさん、と母にまとわりついていた幼い義兄の姿が思い浮かぶ。
しかし、母の生命保険金は大きな金額ではなく、夫婦としての遺産だってほとんど義父のお金にあたるだろう。義兄が気にすることではないと思う。

「母の遺骨は、いずれ私が自分のお墓を買って引き取るつもり。だから……」
「俺たちは家族だ。違うか?」

遮られるように言われた言葉は、厳しくもはっきりと響いた。
義兄の視線を避けていた私はおずおずとその端整な顔を見つめる。真剣な視線とぶつかった。

あなたは私を疎ましく思っているのに、どうして今更家族だなんて言い出すの?
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