義兄の甘美な愛のままに～エリート御曹司の激情に抗えない～

「転職の件は保留しておく。確かにおまえにも社会経験は必要だ。天ケ瀬に戻るのはいつでもできるしな」
「本当に、私はひとりで平気だよ」
「ぼたん、俺はおまえがいないうちにそれなりの地位についた」

突然、義兄が口調を変えた。厳しい命令口調から、わずかに柔らかい声音になったように感じる。

「お兄ちゃんは、今、天ケ瀬本社の統括本部にいるんでしょう」

義兄は大学在学中からグループの職務に携わっていた。
卒業と同時に天ケ瀬株式会社の統括本部に在籍し、今年で四年目だ。昨日のパーティーでは何も言っていなかったように思うけれど。

「明日、正式発表になるが、俺は社長補佐と統括本部長に就く。天ケ瀬本社のみならずすべての子会社、傘下企業も俺が担当してみていくことになる」
「入社四年目で、もう本部長に？　すごい」

義父はけして息子に甘い人ではない。もちろん後継者と目してはいるけれど、義兄が重責に耐えつつ、職務を遂行できると思ったからこその抜擢だろう。

「お兄ちゃん、さすがだね。お父さんも、周りの人たちも期待しての人事だと思う」
「信頼に足ると判断されただけだ。親父と重役たちにはこれからも成果を見せ続けなければならない。職責が増した分、もっと大きな成果を、な」
「ううん、押しも押されぬ天ケ瀬グループの後継者だよ、お兄ちゃんは。お父さんも安心してるね」