義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
2.ふたり暮らし
よく眠れないまま朝を迎えた。
起きて部屋を出ると、義兄はすでに仕度万端で出勤するところだった。物音は聞こえていたけれど、出勤時間がこんなに早いのかと驚く。
「お兄ちゃん……あの」
「おはよう、ぼたん」
「あ、おはよう」
言おうと思っていたことを封じられてしまった気分。いや、昨夜のことをあらためて問いただす勇気は私にはまだない。
「早いね」
「年度の始めだからな。今日は帰宅も遅い。食事は好きにしろ」
「うん、わかった」
「朝食、俺はいつもコーヒーだけだ。今後も気を遣わなくていい。おまえが食べられそうなものは、冷蔵庫や棚にあるから好きにするといい」
義兄は言うだけ言って玄関を出て行った。
昨夜のキスなんてなかったみたい。
俺のものになれと言っておいて今朝の義兄は格別私に優しいわけではないし、どちらかというとまだ壁があるように感じる。
「私のこと……本当はどう思っているんだろう」
ひとり呟いて、しゅんとしてしまう。
こんなことを考えていては駄目。今日は私だって初出勤。落ち込んだり、ぼんやりしていられない。
棚にあった食パンは義兄が昨日買っておいてくれたもののようだった。冷蔵庫の中のスライスチーズを挟んで、インスタントコーヒーと一緒に朝食にした。
さて、私も準備をしよう。
リクルートスーツを着て、髪の毛は後ろにひとつまとめにする。メイクは薄く、だけど大人っぽく。黒のパンプスをはいて、マンションを出発した。