義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
3.思い出を偲んで
五月の連休明け、母の墓参りに出かけた。母が亡くなってもう八年。月日が流れるのは早い。そして八年前には考えもしなかった。たったひとりの最愛の義兄に、愛をささやかれる日々を送っているなんて。
「お兄ちゃん、私が桶を持つよ」
「ぼたんは花を持っているだろう。俺が持つ」
私たちはお墓に飾る花や掃除用具を持ち、我が家からは車で一時間半ほどの霊園にやってきていた。今日は私と義兄だけ。義父はどうしても抜けられない食事会があり参加できなくなってしまった。とても残念がっていた義父の分も、お花を手向けて手を合わせてくるつもりだ。
霊園は広々と開けていた。掃除や墓参りの家族が何組もいる。春の日差しが墓石に反射して眩しい。
天ケ瀬家のお墓には、義兄の実母も含め先祖代々の遺骨が眠っている。母もその片隅に入れてもらっていた。亡き父の遺骨は実家のお墓に入っているそうだけど、私はいつか自分でお墓を買って、両親の遺骨を納めようと思っていた。
だけど、義父は母の遺骨を手放したがらないかな。それに、私自身も……義兄とどうなってしまうのだろう。
墓周辺を掃除し墓石を磨き、花と線香を手向けて手を合わせた。
母は、私と義兄を見てどんな気持ちだろう。怒っているだろうか。呆れているだろうか。
母に直接聞けない分、胸が苦しい。