義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
同居してひと月と少し。
相変わらず義兄は忙しく、なかなか家では顔を合わせない。それでも一緒にいられるときは食事をとり、会話するようにしている。義兄は言葉の通り好意を隠さなくなったし、隙あらば強引にキスをしてくる。駄目だと言っても「おまえもしたそうに見えた」と傲慢な返事。
困った人だと思いながら、抗いきれない私がいる。
合掌を解き顔を上げると、義兄の視線とぶつかった。

「すみれさんに何を報告した? 俺とのことか?」
「報告することなんかないもの」

本当は後ろめたい気持ちから、もやもやとした気持ちで手を合わせていた。母には申し訳ない。
私の葛藤なんて知る由もなく、義兄はしれっと言う。

「俺は母親とすみれさんに、ぼたんと結婚するから見守っていてくれと伝えたぞ」
「また、勝手にそんなこと言ってる!」

私の気持ちなんかとっくにバレていて、私がOKを出せば、この人は今夜にでも私を抱くのだろう。めちゃくちゃに甘やかしてとろけさせて、愛をささやいて、未来を誓ってくれるのだろう。

だけど、私は踏み切れない。天ケ瀬丞一は大企業を背負って立つ人。私とは住む世界の違う人。母の言葉がことあるごとに浮かぶ。

ああ、義父が早く義兄の婚約者を決めてくれればいいのに。そうすれば私も諦めがつくし、義兄だって……。
ううん、私はきっと簡単に諦められない。そして、これだけ長く私を想っていてくれた義兄だって……そうしたら泥沼だ。

どうしよう。誰かにこの気持ちを伝えてしまいたい。
義父に話そうか。そうしたら、あの優しい義父を悲しませないだろうか。母の墓前でも報告できないことを、義父に伝えられない。
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