義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
仲睦まじい交流は続き、休日はキャッチボールや散歩。ちょっと遠出をして動物園や、ピクニック。
夜は大きなリビングで母が私たちに絵本を読んでくれる。
私と彼はその時間が大好きで、たまに早く帰宅した社長がそこに加わるとまるで本物の家族のようだった。

一方で、私にとってえ天ケ瀬丞一は、あくまで兄ではなく目上の存在だった。
物心がつく前から一緒に過ごし、口調こそ本物の兄妹のように親しくとも、私は線引きをして考えていたように思う。

それは母の教育によるところが大きい。
母は私たちを分け隔てなく愛してくれたが、私にはこう言い聞かせた。

『丞一坊ちゃんはいつか大きな会社を継ぐ人なのよ。ぼたんを大事にしてくれるのはありがたいけれど、甘えすぎては駄目』
『お兄ちゃんは私とは違うの?』
『見る世界はきっと違うわ。大人になれば、別々な道を行かなければならないのよ。だから、本当のお兄ちゃんのように考えては駄目』

よくわからないけれど、お兄ちゃんはすごい人なのだと私は思った。大人になったらお別れなのはさみしいけれど、それまではきっと仲良く暮らせるに違いない。

母の教えを守りつつも、私を妹として可愛がってくれる丞一を純粋に慕った。
そして、仲睦まじい私たちを、忠告した母もそして天ヶ瀬社長も温かい目で見守ってくれた。

『ぼたん、僕についてくれば安心だぞ』

彼はそう言って私の手を引いてくれた。

『うん、お兄ちゃん』

私は彼が望むままに兄と呼び、後ろをついて回った。
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