義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
「一年だけで、海の幸付きっていうのは魅力だけどねぇ」

そういう先輩社員たちは、皆家族がいる。単身赴任にせよ、引っ越すにせよ、家族がいれば簡単には決められないだろう。
男女ともに総合職の我が社は、全員に転勤の可能性があるとはいえ、本社か関東近県の営業所を勤務地と想定して入社したメンバーばかりだろう。

営業所の稼働は夏からと聞いている。それまでに希望が出なければ、人事がメンバーを選定するのだろうか。
でも、金沢営業所ができるのは個人的にはちょっと楽しみだ。
懐かしい土地に、仕事で赴くこともあるかもしれない。そんな仕事を任せられるようになりたいものだ。
まだまだ新人の私だけど、この会社で頑張っていると、自分で道を選び歩き始めている実感がある。




「今夜は夕飯を家で食べられそうだ」

六月も終わりにさしかかるこの日の朝、出勤前に丞一がそう言った。丞一はとても忙しい時期で、連日帰宅が遅い。
同居を始めたばかりも多忙さが気になっていたけれど、今はそれ以上。天ケ瀬グループの一部企業の利益率を見直しているそうで、膨大な資料に囲まれて身動きが取れないと本人は笑っていた。それと同時に、義父について会食やパーティーという後継者としての責務もある。
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