義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
私はどうすべきだろう。このまま丞一の言う通りに転職し、そばに居続ければいいだろうか。
だけど、私のために暴君にすらなり得る丞一をこのままにしておいていいだろうか。

『ぼたんが天ケ瀬に入ったら、入れる部署はうるさい親戚がいないところにする。ぼたんをいまだに家族と認めていない連中と、おまえを関わらせはしない。叔母たちのような連中は、粛清しないと天ケ瀬の浄化にならないからな』

私に向かってなんの臆面もなくそう言いきれてしまう丞一は、庇護の気持ちが暴走しているのではないだろうか。

私はひそかに考えていた。
丞一と生きていくと決めた。
だけど、私はありとあらゆる意味で、彼の弱点になり得てしまう。
それなら……。



事件から十日が経ったこの日、私は丞一に早く帰ってきてほしい旨をねだった。

「この前、ちゃんと一緒にディナーができなかったから、今日やり直しをしたいの」

丞一は頷き、絶対に早く帰ると笑顔で約束してくれた。
夕方、帰宅した私はトマトの冷製パスタとチキンサラダを作った。初夏にぴったりのメニューだと思う。
ワインを準備したのは、明日が休日で少し飲んでもいいだろうと思ったからだ。そして、大事な話を悲しい気持ちで終えたくなかったからだ。

「ただいま。お、美味そうだな」
「お兄ちゃん、いいタイミング。ちょうどできたところ」

食事を並べ、ふたりで向かい合った。ワイングラスを掲げ乾杯をする。
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