義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
「いい味だ。上達したよな、料理」
「お兄ちゃんに食べてもらえる機会が増えたらもっと上手くなるのになあ。朝食は前よりスムーズに用意できるようになったでしょ」
「ぼたんと暮らすようになって、朝食の大事さを痛感したよ。午前中の能率があがる」

明るく話しながら私は切り出すタイミングを考える。すると、丞一がこちらを見た。

「ぼたんは英語が話せるな。天ケ瀬の海外事業部の一般職に空きがある。おまえの入る部署はそこで考えているんだが」

迷っていた心が決まる。やはり言うのは今日だ。

「お兄ちゃん、私、天ケ瀬に転職はしない」
「……今の仕事に、未練があるのか?」
「未練というか、やりたいことがあるの。金沢に新しい営業所ができる。一年間、そこに行きたい」

丞一が目を見開く。明らかに困惑と驚きをうつした瞳を、私は真剣に見つめた。

「今携わっている管理の仕事だけじゃなく営業の仕事も任せてくれるみたい。最初は私みたいな新人が行けるはずないって思っていたんだけど、上司に相談したらぜひ頼みたいって。英語や土地鑑があることが、プラスになるからって」
「俺から離れるのか」

そう言った丞一の声はかすれ、力のないものだった。高圧的な態度をとられると身構えていた私は、思いもかけず丞一の悲しい表情を目にして狼狽した。
だけど、ここで引くことはしない。
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