義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
私に異動の辞令が下りたのは翌週。
そして七月末に、私は東京を去った。三月末に引っ越してきて、わずか四ヶ月の東京暮らし。
慣れ親しんだ金沢に向かう日、丞一は仕事を休み、車で私を現地まで送ってくれた。会社があっせんしてくれたアパートでは丞一がセキュリティ的に納得してくれず、営業所近くの大きなマンションを借りてくれたのだけれど、このくらいの過保護は親切として受け取っておくことにする。
荷物の搬入を終え、外で食事を済ませると、もう別れの時間だ。丞一は東京へ帰っていかなければならない。

「次の週末、また来る」

玄関先で丞一は真顔で宣言した。私は笑って答える。

「もう、そんなに無理しないの。お休みなかなか取れないんだから、ゆっくり身体を休めなさい」
「ぼたんが足りないから会いにくる」

私は背伸びして丞一の頬にキスをした。

「七年も離れていられたんだよ。その間、私たちの気持ちは変わらなかった。一年なんてなにも怖くない」
「ぼたんの肌のあたたかさや匂いを知ってしまったから、もう無理だな」

私は困って笑ってしまった。しばらくは遠距離恋愛。だけど、双方交互に会いに行って、愛を深め合えばいい。
寂しいけれど、別な場所で頑張ろう。またいずれ一緒に歩くために。


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