義兄の甘美な愛のままに~エリート御曹司の激情に抗えない~
エピローグ



春まだ遠い二月、私は北陸営業所の事務所で職員を見渡した。背筋をのばし、すうっと息を吸い込む。

「今日までお世話になりました」

受け取った花束を手に頭を下げた。
拍手と「お疲れ様」という声。営業所には一緒に東京からやってきた先輩社員が五名、現地採用の男性社員が二名、パートの女性が二名。

皆に見送られ、私は開業から務めた北陸営業所から去る。
北陸営業所の開所からはすでに一年半が経っていた。当初は一年で東京に戻る予定だった私だけれど、メンバーの入れ替えや引継ぎ、新人の育成のためにさらに半年延長で勤務をした。
想定より長い営業所生活だったけれど、私自身も望んで残ったので、大きな経験になったと思っている。悔いはない。

「天ケ瀬さん、本社ではまた商品管理部に戻るの?」
「いえ、こちらでの経験を活かしてしばらくはセールス部で活動しないかと人事に提案されています。私もそうしたいなと思っていて」
「いいかもね。天ケ瀬さん、人当たりがいいし説明がわかりやすいからこっちでも戦力だったもんなあ」
「英語が堪能なのも助かったよね」

東京本社から一緒の先輩たちに言われ、私は照れ笑いをした。
そんなふうに思ってもらえていたとは知らなかった。ここでの一年半は本当に忙しくて、毎日必死だった。自分がちゃんとできているか顧みる余裕もなかったので、先輩の評価はとても嬉しい。
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