雨上がりの景色を夢見て
『…雛、つらかったね』

私の気持ちを否定するわけでもなく、ただただ受け止めてくれる彼の言葉に、気持ちが少し軽くなった。

『…雛はさ、お母さんの今付き合ってる人の名前とか勤め先、知ってる?』

『えっ…』

どうしてそんなこと聞くのだろうと思ったけれど、私は自分の記憶を辿る。

母は付き合うたびに、恋する女性の顔をしながら、聞いてもいないのに私にどんな人か話しかけてきていた。

聞きたくないのに。どうせまた泣くのに、そんな幸せそうな顔で話さないでよ。

私はそんな歪んだ感情で、母の言葉を聞き流していた。

『…多分、中川…仁さんだったと思う。会社は高台コーポレーションだったかな…』

記憶をたどり、少しずつ情報が蘇ってくる。

『…たしか、母と同い年だけど、仕事ができるから課長になったとか…』

話しながら、母は私に結構細かいことまで話していたのだと思った。

『雛、行こう』

『えっ、行くってどこへ?』

急に立ち上がり、私の手を引き歩き始めた貴史。

『直接会うんだよ。だって、雛が心配なのは、雛のお母さんや、弟か妹になる子が同じ思いするかもってことだろ?』

『で、でも…』

いきなり行って非常識にも程があると思う。

『大丈夫だって。俺たち高校生だから大目に見てくれるかも!勢いも大事!こんなんでめっちゃ怒るような人だったら、俺も雛と一緒に反対するから!だって愛する人の娘が会いにきたんだし、ましてや、自分の娘になる予定の子だよ?』

私の気持ちを察して、笑顔でそう言い切った貴史。そんな彼の姿に、私は立ち止まることをやめ、一緒に高台コーポレーションへ向かった。



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