雨上がりの景色を夢見て
あの時から溢れ出ることのなかった涙が、止めどなくこぼれ落ちる。

「…っ…」

「…雛ちゃん…、貴史を失って、私だって、自分を責めたわ。だって医療に携わる身なのに、自分の息子の異変にすぐに気づけなかった。ううん、異変が起こる前に、事故直後にもっと確認するべきだったのに、あの子の言葉で大丈夫って思ってしまっていたの…」

そう言って、貴史のお母さんは私から体を離した。

「…仕事を辞めようと思ったの。でもね、主人に相談した時に、『貴史はそんなの望んでない』ってはっきり言われて…。あの子看護師になりたいって言ってたことを思い出したの」

そうだった…。貴史は看護師であるお母さんの背中をずっと見てきた。そして看護師という仕事を尊敬していると言っていた。

涙をハンカチで拭いながら、貴史のお母さんの言葉に耳を傾ける。

「…貴史の分まで頑張ろうって、決めたの。だから、雛ちゃん、あなたもあなたの人生心の底から楽しみなさい。貴史に申し訳ないなんて思っちゃだめ。あの子はそれを望んでるわ」

貴史のお母さんの言葉に私の胸がまたぎゅっと締め付けられ、喉の奥が痛くなった。

「…っ…」

貴史…。
本当にそう思って、いいのかな…。


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