雨上がりの景色を夢見て
『10分程で来るそうですので、お掛けになってお待ちください』

会社の受付で、中川仁さんという人に用事がある事と自分の名前を伝えて、貴史と一緒にロビーのソファーに座って待った。

一応、会ってはくれるんだ…。勢いでここまできてしまったけれども、本当に大丈夫なのだろうか。怒鳴られたらどうしよう。

不安で、自分の膝の上でぎゅっと握り拳を作った。

『俺、今日の数学の小テストで赤点取って、放課後、再テストだったから、雛と帰れなかっただろ?帰り、雛に会いたいなーって思ってたら、公園にいる雛見つけて勝手にテンション上がってた。…実際は、雛はさ悩んでたんだけど』

苦笑いして、貴史はさらに話を続けた。

『今、雛は不安な気持ちだけど、中川さんは会いたいって思ってるのかもって。ようするに、自分の気持ちに関係なく、会いたいって思ってくれてる人って結構いるものかも、ってこと。あっ、来たみたい』

貴史の言葉の意味を理解する前に、貴史の視線の先を振り向いた。

目に映ったのは、辺りを見渡しながら人を探している様子の男の人。首からは社員証をぶら下げていた。

『中川さんですか?』

私の後から貴史のよく通る声が響いた。




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