雨上がりの景色を夢見て
夏奈が、中川先生の所へお粥を持って行き、1人になったリビングのソファーで、背中に感じた中川先生の体温を思い出す。

熱のせいもあり、ものすごく熱かった。そして、華奢な身体は軽過ぎて、すごく心配になった。

〝会いたいよ〟

耳元で聞こえた、消え入りそうなか細い声。

中川先生のあんな声、聞いたことがなかった。

いつもは大人びていて、あまり感情を表に出さない女性だと思っていたから、耳元で聞こえた、幼さを感じる等身大の言葉に、驚いた。

あれが、本当の中川先生なのだろう…。きっと彼女自身の、そんな姿を見せていたのが、貴史くんだったのだと思う。

そんな相手を失ってしまった中川先生を想うと、胸が苦しくなる。

首を突っ込んではいけないことは分かってるし、中川先生だって、出来ればそっとしておいて欲しいと思っているはず。

けれども、貴史くんの〝いたずら〟にかこつけて、少しだけ踏み込んで、彼女の辛さを受け止めてあげたい、そういう感情が湧き上がってきた。

「…同僚…なのか?」

無意識に発した自分の言葉に驚く。

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