雨上がりの景色を夢見て
『はい。…雛さんですね。はじめまして中川仁です』

私の目の前にきた男性は、私の目を真っ直ぐ見てそう言うと、少し気まずそうに笑顔を見せた。

『…はじめまして』

『場所を変えましょう。隣の君も、一緒に』

貴史に視線を移してそう言うと、初めて会う仁さんは私たちの前を歩き、会社の裏にある小さな喫茶店に私たちを連れて行った。

『パフェ2つと、カプチーノ1つお願いします』

行きつけのお店のようで、慣れた様子で注文をする。注文を受けた店員さんがいなくなると、仁さんは静かに口を開いた。

『本当は、私の方からちゃんと挨拶に行くべきなのに、申し訳ない…。』

『えっ…』

怒られるとばかり思っていたのに、思いがけない謝罪の言葉に驚いて、思わず声が漏れてしまった。

『ここまで来たということは…瑠璃子さ…いや、お母さんから話を聞いたんだね』

『…はい』

いざ目の前にすると、何をどう伝えればいいのか、頭が真っ白になる。しばらく沈黙が続き、気まずい空間になった。

『………雛は、心配なんです』

沈黙を破ったのは、貴史だった。落ち着いた口調で言葉を続ける。

『お母さんとお腹の赤ちゃんのことが…』



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