雨上がりの景色を夢見て
「そうそう、今日の夜は鍋にするのだけど、雛ちゃん食べられる?」

私の手のひらを優しく丁寧にマッサージしながら尋ねてきた夏奈さん。

「はい。ご飯ご馳走になってしまってすいません…」

「〝すいません〟は無しよ」

にっこり微笑んだ夏奈さんは、今度は私の反対の腕もマッサージし始めた。

「…夏奈さん」

「なあに?」

「…とっても、気持ちいいです」

私の言葉に、夏奈さんは心の底から嬉しそうに微笑んだ。

ガチャッ

「夏奈、夜ご飯…あっ」

突然リビングに入ってきたのは、ラフな格好の高梨先生。まさか私が起きていたなんて思っていなかった様子で、言葉を途中で切った。

「…高梨先生、今日はご迷惑おかけしてすいませんでした」

戸惑っている高梨先生にそう言うと、高梨先生は少し恥ずかしそうに笑い、

「全然迷惑なんかじゃないよ」

と穏やかな口調で答えた。

「鍋に具材詰めてあるから、冷蔵庫から出して火にかけててちょうだい?」

「ん、了解」

高梨先生は短い返事をして、すぐにキッチンに立つ。

手ぎわが良くて、普段から料理をしているのだと思った。

高梨先生がキッチンにいて、夏奈さんにマッサージしてもらっているという自分の置かれている状況に、申し訳ない気持ちと、慣れない光景に違和感しかない。










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