雨上がりの景色を夢見て
ふと、以前温泉で〝夏奈が元気でいてくれるだけで幸せだ〟と言っていたことを思い出す。

些細な喧嘩をすることも、夏奈さんが元気でいるからこそ。だから、喧嘩でさえ高梨先生は幸せを感じるのだと思った。

「…中川先生は、人のことよく見てるね」

「えっ…?」

突然の高梨先生の言葉の意味がよく理解できず、頭の中にはてなマークが浮かぶ。

私の困惑した表情を見て、高梨先生はふっと笑った。

「…頭の中、パンクしないか心配になる」

そう聞こえたのと同時に、一瞬だけふわっと私の頭に高梨先生の手が触れ、ぽんぽんっと軽く撫でた。

そして、そのまま私の横を通り過ぎて、カセットコンロをまだ探している夏奈さんの元へ向かった高梨先生。

予想外の高梨先生の行動に、身動きを取れずに固まる。

今のは、一体…。

「あっ、これだよ、これ」

「こんなとこに入れてたのねー」

後ろから、いつも通りの高梨先生と夏奈さんの会話が聞こえた。



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