雨上がりの景色を夢見て
貴史の言葉に、仁さんの視線がゆっくりと私に移ったのがわかった。

テーブルの下の握り拳に、さらにぎゅっと力を入れて、口を開いた。

声を出す直前、ドクンと心臓が大きく鼓動して、少し唇が震えた。

『私は…正直、もう母が泣く姿は見たくないです。もしそうなったら、生まれてくる赤ちゃんは、今の私と同じ複雑な気持ちになると思います…。ごめんなさい…こんなこと言われたら、不愉快ですよね…』

私の言葉に返事はなく、下がっていた視線を、少しずつ仁さんに向ける。

上げた視線が仁さんの視線とぶつかった。

少し悲しげな、でもどこか優しく微笑んでいるような表情に、私の胸がズキンと痛んだ。

少しの間があり、仁さんがゆっくりと息を吐き、言葉を続けた。

『…実はね、私もバツイチなんです』

『えっ…』

『前の奥さんとの間には子どもはいなかったけれど、仕事の忙しさを理由に、全然家に帰らなかった。寂しい思いをたくさんさせて、悲しませたと思う。…だから、今回の再婚では、同じことは絶対繰り返したくないって、そう思っているんだ…。雛さんのお母さんに、悲しい思いはさせないと約束するよ。もちろんお腹の子どもも』

そこまで話した仁さんは、一度言葉を切って、私の目を真っ直ぐ見た。




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