雨上がりの景色を夢見て
「雛ちゃん、どうしたの?」

カセットコンロを運びながら、私の顔を覗き込む夏奈さん。

私は、はっとして、

「な、何でもないです」

と即答した。

「そう?体調悪くなったら、すぐに教えてね」

夏奈さんはそう言って、テーブルにコンロを置いた。

「ガス、ラスト一本だった。後で買っておくよ」

すぐ後ろから高梨先生の声が聞こえて、心臓がドクンっと大きく鼓動する。

「準備は俺達でするから、気を遣わないで座ってて」

私の横を通り過ぎる高梨先生は、いたっていつも通りで、私に優しく声をかけると、テーブルの上のカセットコンロにガスをセットした。

私が過敏に反応しすぎなのだ。高梨先生にとっては、特に何の意味もない、何気ない行動だったのだと思う。

「夏樹、ビール飲む?」

「うん。夏奈はノンアルだろ?」

そんな会話を聞きながら、心の中で納得し、私は椅子に座った。

「雛ちゃんは飲み物どうする?お酒もあるけど…病み上がりだから辞めた方いいわね」

テーブルの上に缶ビールとノンアルコールのビールを置いた夏奈さんが尋ねた。

「お水にします」

「了解。そういえば、少し前にもらった美味しいお水が冷蔵庫に入ってたわね」

夏奈さんの背中を見ながら、こんなに至れり尽くせりでいいのだろうか、と心配になった。








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