雨上がりの景色を夢見て
お互い、視線を逸らすことが出来ずに、リビングに沈黙が続く。高梨先生の目が、私の心の中を見透かしてしまいそうで、少し怖くなった。

「…きっと踏み込まれたくないことだとは思うけど…」

そう前置きをして、高梨先生が言葉を続ける。

きっと、訊かれる。
私と貴史の事を。

私は手に持っていたビールの缶を、両手でぎゅっと握った。

「…中川先生と大和田貴史くんは…恋人だった…?」

そう訊かれた瞬間、私の心の中の貴史との思い出が溢れ出す感覚が走った。

「…は…い」

震える声で、でも涙は堪えて、やっとの思いで答える。

「…貴史くんのお母さん、大和田さんはね、夏奈が入院していた時に、親身になってくれた看護師さんなんだ」

高梨先生の言葉で、貴史のお母さんと高梨先生、夏奈さんの関係が見えてくる。

「23歳の時に闘病してた時、まだ中学生だった貴史くんが、お母さんの夜勤の時は病院近くのファミレスで出勤前に一緒にご飯を食べてるのを見かけて、声をかけたんだ。それがきっかけで、貴史くんとも話すようになって…。すごく素直で、気さくないい子だったよ」

私と出会う前の貴史を知っているんだ…。

「…夏奈が退院してからは、毎年、年賀状のやりとりはしていて、夏奈が再発した時にもお世話になったんだ…。けれど、その時は…すでに…」

貴史はいなかった…。

高梨先生が言葉にする前に、私は心の中で呟いた。


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