雨上がりの景色を夢見て
それにしても…

「…はぁー…」

小さく息を吐き、テーブルに水の入ったコップを置く。

涙を流す中川先生に手を伸ばしてしまった。頬をつたう大粒の涙を拭った手を見る。

夕方、彼女に触れてしまった後、もう二度と触れないと決めていたのに、目の前で悲しむ彼女を放っておけなかった。

いや…、その前もだ。夜ご飯の準備の時も、気がついたら、中川先生の頭に触れていた。

「…セクハラだ…」

そう呟いて、冗談にならない事をさらに実感し、もう一度息を吐いた。

本当は分かってる。俺は、彼女に惹かれ始めているんだ。

保冷剤を包むハンカチを目を瞑りながら鼻に当てて匂いを嗅ぐ仕草。

好きな香りだったのだろう。まだ赤い瞼だけど、心穏やかな表情に、自分の胸がドクンと大きく鼓動した。

しかも、自分のハンカチという所が、なんとも言えない気持ちになる。

間違いなく、昔の俺だったら、手を出していたと思う。

だけど、今は違う。
過ちは、犯せない。


ソファーにもたれかかって、天井を見上げる。

「…貴史くん…大変だっただろうな」

一見クールで、隙がなさそうだけど、中川先生は無防備だと思うようになった。無意識のうちに心をざわつかせる。

きっと知らないうちに、惹かれていた人がいたと思う。

俺の勝手な勘だけど、きっと上田圭介のお兄さんもそのうちの1人だと思った。






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