雨上がりの景色を夢見て
朝、目が覚めると、夜中に起きた気配のあった雛ちゃんが、ベッドですやすやと眠っていた。

顔のすぐ近くに、保冷剤と夏樹のハンカチが置いてあることに気が付き、雛ちゃんの目をよく見る。

いつもより、少し腫れていてなんとなく事情は察した。

起こさないように着替えて、リビングに向かうと、ジャージ姿の夏樹が朝ごはんを作っていた。

「おはよう」

私の声に、卵を焼いているフライパンから目線を上げ、「おはよう」と返す夏樹。

眠たそうな様子の夏樹に、率直に疑問を投げかけた。

「夜中、雛ちゃん泣いた?」

火を消し、焼き上がった卵焼きをまな板の上にのせて、私の顔を見た夏樹。

「俺が、泣かせた」

そう言った夏樹は真面目な表情で、私は夏樹の覚悟を感じとった。

一度、雛ちゃんの感情をぐちゃぐちゃに掻き回して、吐き出させたのだと察し、卵焼きを包丁で切る夏樹の姿を見つめる。

大切にしてた距離感から、一歩、踏み込んだのね…。

それは、夏樹の雛ちゃんへの感情が、少し動いた事を表しているのだと、私は感じ取った。

「…そういえば、中川先生、夏奈のブレンドしたオイルの香り気に入ってたみたい」


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