雨上がりの景色を夢見て
いつもの高梨先生の様子を思い浮かべる。確かに、夏奈さんに似ていて顔のパーツが整っているし、爽やかさもある。いろんな才能もあるけれど、そういう舞台に立つイメージはない。

「しかも、私が優勝出来なかった1年生と2年生で。それにね、3年生は教育実習を控えてたっていうのと、4年生は採用試験があるっていうのを理由に出場辞退したの」

つまり、出ていれば4連覇だったかもしれないということ。一体どんな大学生だったのか、少しだけ見てみたい気もする…。

「さらっと出場して、優勝したから、ちょっと悔しかった」

夏奈さんは、そう言って笑った。

そういえば…

「夏奈さんと高梨先生は、一緒の大学だったんですね」

「そうなの。私は商学部で、夏樹は外国語学部」

2人はずっと一緒なんだ、と改めて感じる。男女の兄妹でこんなに仲が良いのも双子ならではなのかな。

「そうそう、夏樹のハンカチについていた香り気に入ったって聞いたのだけど…」

〝夏樹のハンカチ〟の響きに、昨日泣きじゃくったことを鮮明に思い出し、1人で気まずくなる。

でも、あの香りは、本当にいい匂いで好きな香りだった。

「あのブレンドオイル小分けにしたから、あげるね」

「いいんですか…?」

思いがけない言葉に、さっきまでの気まずさが薄れ、私のテンションが上がる。

「ええ。なくなったら、またあげるわね」

信号で止まったタイミングで、カバンから袋に入った小瓶を渡してくれた。

「ありがとうございます」

「どういたしまして。それにね」

そこまで言って、青信号になったことを確認して、車を走らせると、夏奈さんは前を見たまま言葉を続けた。

「夏樹が、泣かせちゃったお詫び」

えっ…

その言葉で、夏奈さんはどこまで知っているのか、ものすごく気になった。



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