雨上がりの景色を夢見て
夜、寝る前に、夏奈さんに教えてもらった通りに、ハンカチにアロマオイルを垂らして枕元に置いた。

布団に横になると、いい香りが体を包み込み、ゆったりとした気持ちになる。

「…いい匂い」

目を瞑ると、すぐに睡魔が押し寄せてきて、記憶が途切れ途切れになった。









ザーザーぶりの雨の中、それぞれ傘をさして並んで歩く。

ああ…懐かしい光景。

客観的にすぐに夢だとわかった。でも、この懐かしい気持ちがものすごくリアルで、夢の中だけどドキドキしている。

もちろん、隣にいるのは高校生の貴史。

『来年は受験生か。雛は、進路決めた?』

これは高校2年生の梅雨の時期のこと。

『ううん。まだ。貴史は?』

『俺は、看護師かな。推薦狙ってるけど、評定際どい…』

そう言って、困った表情を私に向けた貴史。この頃から、お母さんの職業を尊敬していたのだと思い出す。

将来、なりたい職業が見つかっている貴史のことが、素直に羨ましかったし、応援もしていた。

ふと、傘をさしていないお互いの手が、触れ合う。その瞬間、傘と傘がぶつかって、私たちは立ち止まって顔を見合わせる。

『…やっぱり傘一つにしよう』

貴史は、照れながらそう言うと、私の手に貴史の傘を持たせて、私の傘を手に取ってとじた。

そして、私の持っていたさしたままの傘を手にとり、優しく微笑んだ。



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