雨上がりの景色を夢見て
『傘、持つわ』

自分のとじた傘に手を伸ばしかけたけれど、すぐに貴史が口を開いた。

『俺持つから。濡れちゃうから、雛は傘の下にちゃんと入って』

そう言い切って、雨にあたった私の肩を、手で撫でて雨の水滴を落とした貴史。

些細なところでも、いつも私を気にかけてくれていた貴史。

『あっ』

突然声を出して、私の顔を困った顔で見る貴史。

『これじゃあ…手をつなげないね』

貴史の言葉に、確かに、と思った。繋ぐ手は傘を持つ手になり、結局手をつなげないまま。

『…そうね』

私の返事に、貴史はしばらく黙って考え込む。

『でも…』

そう言って、私の目を見つめ、片方の手で私の頬に優しく触れた。ゆっくりとお互いの顔が近づく。

ドクンッと大きく鼓動する心臓。

傾いた傘の中で、そっと唇が重なった。

『…これが出来るから、いっか』

ほんのり頬を赤らめて、嬉しそうに笑う貴史。私もつられて、顔が熱くなるのを感じた。

貴史の不意打ちの行動に、私はいつもドキドキしていた。それは、私が考えている以上に私への気持ちをストレートに表しているものだった。




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