雨上がりの景色を夢見て
「他の先生方も、夏奈さんの存在ご存知なかったんですね」

放課後、職員室に残ったのが私と高梨先生だったこともあり、コーヒーを飲む高梨先生に声をかけた。

「そういうの話題にならなかったので。ところで、今日の飲み会には参加されないんですか?」

今日は1学期終業式ということで、夜は職員による飲み会がある。もちろん自由参加ではあるけれど、行かない先生はごく少人数。

「はい。今日は妹の誕生日なんです」

母には、仕事の付き合いを優先させていいと言われていたけれど、菜子の寂しそうな表情を見て、菜子のお祝いを優先しようと決めた。

飲み会は学期ごとや行事がひと段落するたびに開かれている。菜子の誕生日は年に1回。そう考えれば、間違いではない、と納得できる。

「高梨先生も、不参加でしたよね?」

「はい。あっ、これ良かったら」

返事をしながら、私に引き出しから取り出した一口チョコを差し出してくれた。

「ありがとうございます」

包装を剥がし、口の中に入れる。じわっと口の中に広がる甘さが、疲れた頭に行き渡る。

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