雨上がりの景色を夢見て
「明日は、夏奈の定期検査の日で、朝から付き添う予定なんです」

以前、年に一度全身検査をしていると話してくれたことを思い出す。

「…そうだったんですね」

あんなに元気だから、大丈夫。そう思ってはいるけれど、検査結果が出るまでは確信が持てないものだと思う。

「強がってはいるけど、前の日は落ち着かないみたいで…こればかりは、仕方ないです」

高梨先生は、心配そうにそう言うと、悲しげに笑った。

そんな様子に、

「先生、手を出してください」

と声をかけて、私はカバンから小さな缶ケースを取り出して、中に入っていた飴玉を2粒、高梨先生の手のひらにのせた。

「綺麗な飴ですね」

手のひらを見て、優しく微笑んだ高梨先生を見て、少しだけほっとした。

「妹から貰った、魔法の飴です」

虹色カラーでキラキラした包装に包まれたこの飴は、菜子から貰ったもの。菜子曰く、願い事を叶えたい時に食べる飴らしい。

おそらく、どこかに出かけた時に、おみやげ屋さんのキャッチフレーズにそう書いてあり、信じ込んだもの。

だけど、菜子の純粋な気持ちが嬉しくて、元気を出したい時に、食べている。

「魔法の飴ですか…。夏奈にも1粒あげますね」

高梨先生は、嬉しそうに飴玉をポケットに入れた。同時に、職員室の電話が鳴り、高梨先生が対応する。

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