雨上がりの景色を夢見て
あの日、高梨先生の前で泣いたことについて、あれ以来、一切触れてこない。

校内では、敬語が外れることは全くないし、以前と変わらない距離感を保っている。今日、夏奈さんの話題で話をしたのも久しぶりだった。

高梨先生にとって、あの日のこと、貴史とのことはどういった位置づけになっているのか、少し気にはなるけれど、あえて私から尋ねるのも変な気がして、触れていない。

「中川先生、何時ごろ帰ります?」

電話を切り終わった高梨先生が席に戻ってきた。

「えっと…19時頃です」

あと1時間ほどで仕事がひと段落しそうだと確認して、そう答えた。

「じゃあ、その時間に、一緒に戸締り確認して出ましょう」

「はい」

返事をして、パソコンのキーボードを打ち始めた。

高梨先生は、私の向かい側で、パソコンと向き合って仕事を黙々とこなしていく。

会話は何もなく、キーボードを打つ音や、書類をめくる音だけが職員室に響いた。


あっという間に時間が過ぎ、気づけば19時5分前。

終わった…。

パソコンを閉じ、まだパソコンと向き合っている高梨先生をチラッと見る。

私の視線に気がつき、高梨先生の目線が私の方に向いた。




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