雨上がりの景色を夢見て
「雛ちゃん、今日泊まっていく?」

ワンピースを体にあてたまま、私をまっすぐ見て尋ねる菜子。

明日は、夏休み中ということもあり、午後からの出勤にしていた。朝一度、家に戻る余裕は充分ある。

何より、目の前にいる菜子の期待に満ちた目を見ていたら、断ることなんてできなかった。

「…泊まって行こうかな…」

「よし、雛ちゃん、今日は一緒に飲もう」

私の返事に真っ先に反応したのは、さっきよりも酔いが回っている仁さんで、そんな仁さんを見て、お母さんは呆れていた。

「やったぁ。今日は22時まで起きててもいい?」

「今日は特別よ」

「わーい!」

母の許可に、大喜びした菜子は、ワンピースをソファーの背もたれに綺麗にかけて、私の隣に座った。

「雛ちゃんのくれたワンピース来て、夏休み中に一緒に水族館行こうよ」

「そうね。宿題終わらせたら、ね」

「うん、頑張る!」

私の言葉に、素直に返事をする菜子。その様子が可愛くて、思わず微笑んだ。







菜子の寝顔を確認して、リビングに戻る。

ソファーにもたれかかって、もう寝かけている仁さんにタオルケットをかけた母が私に気がつき、手招きをした。

「見て」

母に近づくと、ソファーの横の棚に立ててある、菜子の入学式の写真たての後ろに置かれた、2枚の券を手にとって見せてくれた。

おそらく菜子の字。

「…なんでもおねがいできるけん?」

何でもお願い出来る券…。肩たたき券的なものなのだろう。

「父の日の、菜子からのプレゼントよ。3枚もらって、一枚は、肩たたきに使ったわ。残り2枚はとっておくって言ってね」

そこまで言って、母はふふふっと笑った。

「後で使うってことね?」

そういうことだろうということで、聞き返すと、母は笑いがおさまってから言葉を続けた。




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