雨上がりの景色を夢見て
「ただいまー」

「あっ、パパ帰ってきた」

オセロをしていた菜子は、勢いよく立ち上がって、リビングを飛び出した。

「おかえり!雛ちゃんきてるよ!ドーナツも買ってきてくれたの」

「おっ、そうか、そうか」

菜子と仁さんの会話の聞こえる玄関に、私もリビングから顔を出した。

「おかえりなさい」

「ただいま。ドーナツ買ってきてくれたんだって?ありがとう」

笑顔を見せたスーツ姿の仁さんは、あの日初めて会った時よりも、少しだけ目尻のしわは増えたけれど、さほど変わっていない。

「元気そうで安心した。年度はじめで、忙しいと思うから、身体壊さないように」

「ありがとう、仁さんもね」

自然とお互いに気遣う言葉を交わせるのも、家族との関わりを持っていられるのも、私の居場所があるのも、あの時、貴史が私に手を引っ張って仁さんの会社まで連れてきてくれたから。

ここに貴史がいたらいいのに。

そんな事を今まで何度も考えた。だけど、そんな事出来るわけない。だって、私を救ったあなたは、どこを探したってもういないのだから。










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