雨上がりの景色を夢見て
「どこにも異常は見られないですよ」

担当医の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。隣に座っていた夏樹も、小さく息を吐いたのが分かった。

「次は1年後ですね。もし何か気になる事があったら、様子は見ずに、すぐに来てください」

最初の手術からずっと担当医となっている藤永先生は、そう言って、私達を交互に見た。

「毎年、元気なお二人に会うたびに、この仕事に就いてよかったなと思えていますよ」

藤永先生の嬉しそうな笑顔に、結果を聞くまでドキドキしていて疲れていた体が元気になった。

「先生に救っていただいたおかげです。また来年、検査の時にお願いします」

私はそう答えて、立ち上がった。隣の夏樹も同じように立ち上がり、同じタイミングでお辞儀をした。

「最後まで、息ぴったりだ」

そんな私達に、藤永先生はそう言って笑った。

診察室を出て、会計に向かう。歩いていると、夏樹がスマホを取り出して、メールを打ち始めた。

「お母さんに?」

「うん。さっき、まだかって催促がきて」

母も遠く離れた場所で心配していたのだと思うと、近くにいてあげなくて申し訳ない気持ちになる。

でも、こうして元気に生活していることもひとつの親孝行なのかな、と思うようになった。

「あーあ、甘いもの食べたくなっちゃった」

わざとらしくそう言って、隣の夏樹を見る。

夏樹は、

「アップルパイ、食べに行く?俺の奢り」

と仕方なさそうに言った。




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