雨上がりの景色を夢見て
「夏の予選、間に合うかな」

土埃で茶色くなった練習着姿の上田圭介くんは、大きく腫れた右手首を涙目で見つめ、汗の滲む泥だらけの額を、反対の手で拭った。

「今は断言できないわ。病院で診てもらってからね」

「高梨先生、私は先に病院に連れて行くので、上田くんの保護者の方に連絡してください」

野球部顧問でもあるジャージ姿の高梨先生に、そう頼んで、私はあらかじめ呼んでいたタクシーに上田くんを乗せて、一緒に病院に向かった。

「やべえ、揺れるとめっちゃ響く」

保健室では軽くしか固定できるものがなくて、ここまでひどい怪我だとあまり意味がないようだ。

「…野球やってての怪我じゃないから、逆にかなりへこむ」

上田くんが怪我をしたのは、部活動中の休憩時間。泥だらけの顔を洗おうと、水道に向かっている途中、よそ見をして、段差につまずいて転んだ。よそ見をしていたから反応が遅れて変な手のつき方をしたらしい。

「よそ見って、なにをみてたの?」

「鳥…変な鳴き方してて」


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