雨上がりの景色を夢見て
「…雉かしら」

今日はやたらと雉の鳴き声が響いていた事を思い出した。

「あの鳴き声って雉なの?キーッって急に鳴いたから、どこに居るのかと思って探してたら…こうなった。…雉…」

上田くんは落胆して、タクシーの背もたれにうなだれた。

「もうすぐ着くわ」

住宅街の角にある白い建物が見えた。学校医でもあり、内科と整形外科があるクリニックだ。

先に私が降りて、上田くんの手首に余計な振動が加わらないように、そっと腕を支えてあげる。

「…手術…かな」

病院を目の前にして、不安が押し寄せてきた様子で呟いた上田くん。

私は何も言わずに、彼のペースに合わせて隣を歩いた。

病院は混んでいて、もう少し時間がかかるとの事だったので、待合室の端ソファーに座って待つことにした。

「先生、俺やっとレギュラーとれたんだ。1年生の時1年間レギュラーとれなくって、ユニフォームすら着れなくて、すっげー悔しかった。だから、春休み中の大会で、名前呼ばれた時、すっげー嬉しかった。なのにさ…」

悔しそうに唇を噛み締める上田くんに、努力した姿を実際に見ていたわけじゃないから、私が何を言っても安っぽい言葉にしかならない気がした。
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