雨上がりの景色を夢見て
家に帰って、もう寝てるだろうと思ったのに、夏奈は起きていた。

『…ただいま』

平然を装って、夏奈に声をかける。

『おかえり』

ソファーでDVDを見る夏奈は、俺の方は見ずに答える。

グラスを手に取って、冷蔵庫のミネラルウォーターを注いでいると、夏奈がDVDを止めて近づいてきた。

『雛ちゃんとうまくいったのね?』

『えっ…なんで…あっ、うおっ』

断言した夏奈に驚いて、グラスから溢れた水に慌てる。台拭きで水を拭き取りながら、夏奈を見た。

『だって、文句ひとつ言わないんだもん。結果的に良かったって事でしょ?』

夏奈の洞察力には驚かされる。俺は水気を絞った台拭きをたたみ直し、水を一口飲んだ。

『で、キスくらいしてきた?』

『ぶっ…ゲホゲホッ』

夏奈の一言に、今度は水を吹き出しそうになる。

『…夏樹、そんな奥手だった?』

俺の反応に、夏奈は色々察して、呆れている。

奥手ではない。むしろ、自分で言うのも変な話だけど、昔は結構手は早い方だったと思う。

だけど…

『…大切にするって決めてるから』

昔付き合ってきた子を大切にしなかったわけではない。けれど、雛ちゃんに触れる時は、感情のおもむくままではいけない気がする。



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