雨上がりの景色を夢見て
だけど、この言葉だけは伝えたいと思った。

「上田くんの努力、見てくれてる人は知らないところでたくさんいるわ。挫折があっても、どこかに必ず上る階段はあるの」

高校生の頃、ずっと塞ぎ込んでいた私に、当時の養護教諭の先生が言った言葉。

私はこの言葉に救われた。

大事な受験の時期だったけれど、貴史のいない時間を受け入れられなくて、かろうじて登校していた私の居場所だったのが、保健室だった。

上田くんは何も言わず、学校にいた時よりも青く腫れ上がった手首をじっと見つめていた。








「複雑骨折です」

担当医師の言葉に、丸椅子に座っている上田くんの表情を伺った。

手首の骨折がはっきりわかるレントゲン写真をじっと見つめる上田くん。

こんな時、ご両親だったらどんな言葉をかけるのだろう。

診察室に呼ばれる前に、高梨先生から連絡があり、お母さんとまだ連絡が取れなく、時間がかかるとのことだった。

コンコン

ノック音の後扉が開き、受付のスタッフが顔を覗かせた。


「上田さんのお兄様がいらっしゃいました」





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