雨上がりの景色を夢見て

『もう一度見たいわ。雛ちゃんはおいくつ？』

「えっと…今26歳です」

高梨先生のお父さんの隣に現れたお母さんは、私を笑顔で見ている。

『夏樹も、なかなかやるじゃないの。お母さんビックリしちゃったわよ』

さっきよりは落ち着いた様子で、今度は高梨先生を見る。

「まあ、俺の話はこの辺で。それより、父さんは相変わらず仕事忙しいの？」

『そうだな、まあ少しは落ち着いてきたよ。夏樹の方はどうなんだ？』

「元気にやってるよ」

『そうか。37歳おめでとう。幸せにな』

高梨先生のお父さんは、最後に私の方を見て優しく微笑んだ。その表情は高梨先生の柔らかい雰囲気にそっくりで、少し驚いた。

電話を切ったあと、夏奈さんと高梨先生は、お茶を一口飲み、ほぼ同時に同じようなため息をついた。

「「…疲れた」」

声も被り、私は思わずクスッと笑ってしまう。

「お母さん、あんな感じだから、お父さんといるとちょうどいい感じになるのよね」

夏奈さんの言葉を聞いて、ちょっと納得してしまう。けれど、子どもの誕生日をあんなにハイテンションで堂々と祝えることがちょっと羨ましいな、とも思った。

そういえば…

「高梨先生のお父さん、白衣着てたんですが、お医者さんとか研究者ですか？」

「うん。植物学者で、ずーっと海外で研究してるんだ。俺らが小さい頃は、年に2回くらいかな、帰ってきてたけど、今は母さんもあっちだから、ここ数年、直接会ってないかな」